伊勢物語

 

九ノ三

名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと

都という名をおまえは与えられているそうだから、さァ、そこで尋ねたい、都鳥よ。わたしが愛する女性は京の都で無事に日々を過ごしているか否かを。

みよし野のたのむの雁もひたぶるに君がかたにぞよると鳴くなる

三芳野の田の面におりたつ雁は、引板が振られて餌が撒かれるとそちらの方へ寄ってゆきます。その雁のように、私の娘もひたすらあなたを頼みとして、あなたの肩に寄り添って暮らしたいと申しております。

わがかたによると鳴くなるみよし野のたのむの雁をいつか忘れむ

田の面の雁がわたしの方に近寄って来て鳴くように、わたしを頼みとしてくださっている三芳野のあなたの娘御。その娘御のことをいつか忘れるでしょうか、忘れることはありません。

十四

夜も明けばきつにはめなでくたかけのまだきに鳴きて夫なをやりつる

夜が明けたなら水槽にぶち込まずにおくものか。鶏めがまだ早すぎるのに鳴き立てて、大事な男を帰らせてしまったではないか。

(一番鶏の鳴き声を合図に男は女のもとを去る。男女の一時的な仲ではこれが不文律。その後も離れないと継続的な仲とみなされ、扶養義務が生じかねない)

二十二

秋の夜の千夜を一夜になせりともことば残りてとりや鳴きなむ

秋の千夜を一夜とみなしたとしても、愛の言葉を言い尽くすことができずに、夜明けを告げる鶏が鳴くことでしょう。

四十三

ほととぎす汝が鳴く里のあまたあればなほうとまれぬ思ふものから

ホトトギスよ、おまえはわたしのいちばん愛おしんできた鳥なのに、おまえが美しい鳴き声を聞かせている里がたくさんあるので、どうしても、わたしは不愉快な感情にも支配されてしまうのだよ。

名のみたつしでのたをさは今朝ぞなく庵あまたとうとまれぬれば

悪い評判ばかり立って、ホトトギスは今朝はまた今朝で、あちらこちらに自分の巣も定めないで渡り歩くといって嫌われ仲間はずれにされてしまったので、泣いています。

庵おほきしでのやをさはなほたのむわが住む里に聲したえずは

あちらこちら多くの巣を持って飛び回り、死出の田長と呼ばれるホトトギスはあまり好きにはなれないが頼りにされよう。私の住む里で声を聞かせてくれるならば。

四十五

行くほたる雲のうへまで往ぬべくは秋風ふくと雁に告げこせ

飛び去って行く蛍よ。雲の上まで行くことができるならば、下界ではすでに秋風が吹いているから早く渡って来るよう、雁に知らせてくれまいか。

五十二

むかし、男ありけり。人のもとより飾り粽おこせたりける返事に、

あやめ刈り君は沼にぞまどひけるわれは野に出でてかるぞわびしき

とて、雉をなむやりける。

五十三

いかでかは鳥のなくらむ人知れず思ふ心はまだ夜深きに

どうして鳥が鳴くのだろうか。誰にも知られないように、恋い慕っている私の思いからすると、夜明けには程遠い。

六十八

雁鳴きて菊の花さく秋はあれど春のうみべに住吉の浜

空に雁が鳴き菊の花が咲く秋の風情は、捨てがたいというけれど、飽きもくる。しかし、憂き世の中で、春のこの住吉の海辺は、退屈することのない、なんと住み良さそうな浜であることか。

百十四

翁さび人なとがめそ狩衣けふばかりとぞ鶴も鳴くなる

私が老人じみているのを、とがめないでくれ。狩衣を着飾ってお供をするのは今日かぎりだと鶴も鳴いている。

むかし仁和のみかど芹川い行幸したまひける時、今はさること似げなく思ひけれど、もとつきにける事なればおほたかの鷹飼にてさぶらはせたまひける

百二十一

鶯の花を縫ふてふ笠もがな濡るめる人に着せてかへさむ

鶯が梅の花びらを縫い合わせて作るという花笠がここにあればねえ。あなたが雨にお濡れになるだろうから、花笠を着せて送り出してあげたいのに。

梅の花を縫ふてふ笠はいな思ひをつけよ乾してかへさむ

梅の花笠などは要りません。それよりも、あなたの「思ひ」の火をわたしにつけてくださいな。あなたの思火で濡れる衣装を乾かして、わたしの思火をお返ししますから。

百二十三

野とならば鶉とねりて鳴きをらむかりにだにやは君は来ざらむ

あなたに去られてここが野となったら、わたしは鶉となって、憂、つらと、鳴いておりましょう。そうすれば、あなたはお好きな狩にかこつけて、仮そめにでも来てくださるでしょうか。

 

 

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ますらをのえむひな鳥をうらぶれて なみだをあかくおとすよな鳥

善知鳥

 

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