枕詞

 

枕詞

被枕

朝鳥の(あさとりの)

音のみ泣く(ねのみなく)

  (朝の鳥は盛んに鳴くので)

朝鳥の音のみし泣かむ妹子に今また更に逢ふよしを無み

(朝鳥が鳴く声のように、毎朝泣くのだろう。我妻に今またもう一度逢うすべもない) 高橋朝臣

あしひきの

山鳥 (山に関係した言葉にかかる)

あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む

(山鳥の尾の、長く垂れ下がった尾のように長い夜を独り淋しく寝ることだろうか)

 柿本人麻呂

足引の山ほゝぎす里なれて たそがれどきになのりすらしも

今昔物語

葦鴨の(あしがもの)

うちむれ

  鴨の群棲する習性から「うちむれ」

あしがもの うち群れてこそ 我は来にけり

(葦辺で群れる鴨のように、群れて私たちは来た) 

土佐日記

葦鶴の(あしたづの)

音に泣く(ねになく) たづたづし

  葦辺に棲む鶴は高い声で繰り返し鳴くことがある。

住江のまつほど久になりぬれば あしたづのねになかぬ日はなし

(住江の松ほど、逢えず久しくなったので、葦鶴の声に、根で泣かぬ日はないことよ)

古今和歌集

あぢさはふ

()

  『あぢ』はトモエガモ

味澤相 目者非不飽 携 不問事毛 苦勞有来

あぢさはふ まはあかざらね たづさはり こととはなくも くるしくありけり

あぢむらの

とをよる さわく かよい

  トモエガモの群れのようにの意で

あぢ群のとをよる海に船浮けて 白玉採ると人に知らゆな

万葉集

天飛ぶや(あまとぶや)

(かり)

  雁は天高く飛ぶ鳥であるから。

天飛ぶや雁を使ひに得てしかも 奈良の都に言告げやらむ

万葉集

(とり)

  鳥は天を飛ぶものであるから。

天飛ぶや鳥にもがもや都まで 送りまをして飛び帰るもの

万葉集

斑鳩の

因可(よるか)

  イカルが寄り集まって住む習性から「寄る」と同音の地名の「因可」

斑鳩の因可の池の宣(よろ)しくも 君を言はねば思ひそ我がする

万葉集

鶯の(うぐひすの)

  (枕詞と見ない説もある)

うぐひすの春になるらし春日山 霞たなびく夜目に見れども

万葉集

鶉鳴く(うずらなく)

古る、古し

  鶉は荒れ果てて草深い野に住むところから「ふる」にかかる。

鶉鳴く 古りにし郷の 秋萩を思う人どち 相見つるかも

万葉集

沖つ鳥(おきつとり)

  鴨は沖に浮かんでいる鳥であるから。

沖つ鳥 鴨どく島に わが率寝し 妹は忘れじ 世のことごとに

古事記

鴛鴦の

惜し 憂き 浮寝

  同音によって「惜し」、水に浮くので「憂き」、さらに「浮寝」

をしどりのうきねの床やあれぬらん つららゐにけり昆陽の池水

千載和歌集

鷗居る

藤江の浦

かもめゐる藤江の浦の沖つ洲に 夜舟いざよふ月のさやけさ

新古今和歌集

雁が音の(かりがねの)

なきこそわたれ 来継ぐ

憂きことを 思ひつらねてかりがねの なきこそわたれ秋の夜な夜な

古今和歌集

さ野つ鳥(さのつどり)

(きぎし)

  雉は野に棲む鳥であるから。

・・・青山に 鵼は鳴きぬ さ野つ鳥 雉は響む

古事記歌謡

息長鳥(しながとり)

猪名(ゐな)

  息長鳥はカイツブリ。雌雄居並ぶことが多いので。

しながとりや ゐなのふし原 あいぞ とびてくる しぎが羽音は おとおもしろき しぎが羽おとは

島つ鳥(しまつとり)

()

  鵜は島に居る鳥だから。

吾はや飢ぬ 島つ鳥 鵜養が伴 今助けに来ね

古事記歌謡

白鷺の

濡衣

  白鷺は水辺にいていつもその羽が濡れているから

とめふれど湊たちいでぬ白鷺の 濡衣をだに着せむとぞ思ふ

忠岑集

白鳥の(しらとりの)

とば 鷺

白鳥の 鷺坂山の 松陰に 宿りて行かな 夜もふけゆくを

(鷺坂山に立つ、この人待ち顔の松陰で一夜の宿をとろうかな 白鳥のような女が人待ち顔 夜も更け行くから宿をとろうかな) 

万葉集

そに鳥の(そにどりの)

  カワセミの羽が青いことから。

鴗鳥の 青き御衣を ま具ぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見るとき はたたぎも こもふさはず

(翡翠の羽のような青い着物を丁寧に整えてくれたが、沖つ鳥のように自分の胸を見て、手の上げ下ろしをしてみても、この着物もどうも似合わない)

古事記

高行くや(たかゆくや)

  高く飛んで行く

雲雀は 天に翔(かけ)る 高行くや 速総別(はやぶさわけ)の 鷦鷯捕らさぬ

古事記歌謡

栲領巾の(たくひれの)

  こうぞで作った領布は白いので

栲領巾の 鷺坂山の 白つつじ 我れに にほはに 妹に示さむ

大伴家持

立鴨の(たちこもの)

発ちの騒き

  鴨の飛び立つ時さわぐように

立鴨の立ちの騒きに相見てし妹が心は忘れせぬかも

万葉集

鶴が鳴き(たづがなき)

葦辺

鶴が鳴き葦辺をさして飛び渡る あなたづたづし独りさ寝れば

万葉集

千鳥鳴く(ちどりなく)

佐保の川 み吉野川

  千鳥で有名な川

千鳥鳴く 佐保の川瀬のさざれ波 やむ時もなし我が恋ふらくは

万葉集

飛ぶ鳥の(とぶとりの)

明日香

  飛ぶ鳥のように早く帰ってくるように。イスカと音が似る

飛ぶ鳥の 明日香の川の 上つ瀬に 生ふる玉藻は 下つ瀬に 流れ触れらばふ・・・

万葉集

遠つ人(とほつひと)

(かり) 松 松浦

  雁を、遠く旅する人に喩える。

今朝の朝明秋風寒し遠つ人雁が来鳴かむ時近みかも

万葉集

鳥屋帰る(とやかへる)

  鷹は羽が抜け替わるとき、鳥屋に帰るから

とやかへる鷹の尾山のたまつばき 霜をば経とも色はかはらじ

新古今和歌集

鳥が鳴く(とりがなく)

(あづま)

  鳥が囀るような東国方言のわかりにくさ。

鶏が鳴く 東の国に 高山は 多にあれども・・・

万葉集

鳴く鶴の(なくたづの)

たづね、音

きみを思ひおきつの浜に鳴く鶴の たづね来ればぞありとだに聞く

古今和歌集

庭つ鳥(にはつとり)

(かけ)

  庭つ鳥は鶏。

庭津鳥 かけの垂り尾の 乱れ尾の 長き心も 念ほえぬかも

万葉集

鳰鳥の(にほどりの)

息長川(おきなががは)  

  カイツブリは息が長いので。

にほどりの おきながかはゝ たえぬとも きみにかたらむ ことつきめやも

万葉集

鳰鳥の(にほどりの)

(かづ)

にほ鳥の 潜く池水こころあらば 君にわが恋ふる情示さぬ

万葉集

鵼鳥の(ぬえどりの)

のどよふ(か細い声を出す)、片恋

  物悲しく、人を恋い慕うように鳴く

ぬえ鳥の のどよひ居るに いとのきて 短き物を 端切ると・・・

万葉集

ぬえ鳥の(ぬえどりの)

うらなく 

あおによし 奈良の我家(わぎへ)に ぬえ鳥の うらなけしつつ 下恋に 思ひうらぶれ

万葉集

野つ鳥(のつとり)

(きぎし) 

  野の鳥であるキジの意

・・・雨は降り来 野つ鳥 雉はとよむ 家つ鳥 鶏も鳴く

万葉集

箱鳥の(はこどりの)

かく

 「はこはこ」と、春先に鳴く

(はしたか)

端山 初狩 篠 すずろ

  羽の端で「端山」 鷹狩の鈴から「篠(すず)

はし鷹の篠の篠原狩り暮れて 入日の丘に雉子鳴くなり

万台和歌集

初雁の

はつか(僅か)

  同音で

初雁のはつかに声をききしより なかぞらにのみ物を思ふかな

古今和歌集

浜洲鳥(はますどり)

足悩む(あなゆむ)

  浜辺にいる鳥は、よたよたと歩きにくそうにみえるので

人の児の愛しけ時は浜洲鳥 足悩む駒の惜しけくもなし

万葉集

浜千鳥(はまちどり)

(あと) ふみおく

  浜千鳥は砂浜に足跡を残すので、筆跡(手紙)を意味

する『跡』に続けた。

浜千鳥 跡はみやこに かよへども 身は松山に 音のみぞ鳴く

上田秋成

時鳥(ほととぎす)

飛幡(とばた) ほとほと

  飛ぶことから、地名の飛幡

霍公鳥 飛幡之浦に しく波の しくしく君を みむよしもがも

万葉集

真鳥住む(まとりすむ)

雲梯(うなて)の杜

  「まとり」は立派な鳥、主に鷲。生息していた「雲梯の森」から

真鳥住む雲梯の杜の菅の根を 衣にかき付け着せむ児もがも

万葉集

鶺鴒(まなばしら)

尾行き合へ(をゆきあへ)

鶺鴒 尾行き合へ 庭雀 うずすまり居て 今日もかも

古事記歌謡

鶚居る(みさごゐる)

磯 荒磯 沖 渚

  ミサゴは海辺に住み魚類を捕る

みさご居る沖つ荒磯に寄する波 行くへも知らず我が恋ふらくは

万葉集

水鳥の(みづとりの)

青葉(あをば)

  水鳥の羽は青いことから。

秋の露は移しにありけり水鳥の 青葉の山の色づく見れば

万葉集

水鳥の(みづとりの)

  鴨は水鳥を代表する鳥。

水鳥の 鴨の羽色の 春山の おぼつか無くも 念ほゆるかも

万葉集

山鳥の(やまどりの)

を ひとりね

  山鳥は尾が長く、夜は雄と雌が峰を隔てて寝る

秋風の吹きよるごとに山鳥の ひとりし寝ればものぞかなしき

古今和歌六帖

呼子鳥(よぶこどり)

よび 声になきいで

ひとりのみ恋ふれば苦し呼子鳥 声になきいでて君に聞かせむ

五撰和歌集

鷲の住む(わしのすむ)

筑波の山

鷲の住む 筑波の山の 裳羽服津の その津の上に 率ひて・・・

万葉集

 

飛鳥の謎

あすか(イスカ)という鳥を明日香の地にいいかけて「飛ぶ鳥の」と冠せたとする説。

飛ぶ鳥の足軽と続くとする説。

赤い鳥(瑞鳥)が出現したことにより「朱鳥」と改元した瑞祥を記念したとする説。

天武時代の皇居「飛鳥浄御原」が明日香に所在したからとする説。

飛鳥は安宿(やすらかなやど)の仮字で、飛ぶ鳥が好んで羽を休めたからとする説。

飛ぶ鳥のように早く帰ってくるようにの意で「明日香」にかかるとする説。

「翼」に「あくる日」の意があることから「明日香」にかかるとする説。

 

 

 

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