詩
大手悼夫 |
白鷺は さうれいの気をつらぬいて啼く、地平をのぼる陽とともに。 白鷺は 羽ばたき、羽ばたく、蘆の葉をふるはせて 水のしずくを、真珠のやうにふりまく。 それも束の間、白鷺は、ひかりのなかへ 影のやうに消えてしまふ。 白鷺 |
大手拓次 |
手をのばす薔薇 「はねをなくした駒鳥のやうに おまへは影をよみながらあるいてゐる」 藍色の墓 |
河井酔茗 |
森に木伝ふ山鳥の 七彩の尾の美くしき 塔影 |
宙に砕けし白銀の 星の塵こそ地に積れ 帝座を降りし雷鳥は 真白き鳥と変じけり 塔影 |
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霧に包まれて 「つがひの岳雀(たけすずめ=イワヒバリ)が人も恐れずに雪の上を歩いてゐます」 紫羅欄花 |
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北原白秋 |
白き花鳥図・鴛鴦 「つれづれと、頬(ほ)に並ぶ 番ひ鳥、薄日、鴛鴦」 海豹と雲 |
古代新領・早春 「槇のこずゑに、青鷺の 群れて巣をもつ幽(かけ)けさよ」 海豹と雲 |
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草野心平 |
作品第肆「川面に春の光はまぶしく溢れ。そよ風が吹けば光りたちの鬼ごっこ。葦の葉のささやき。行々子は鳴く。行々子の舌にも春のひかり」 富士山 |
島崎藤村 |
をきぬ 「みそらをかける猛鷲(あらわし)の人の処女(をとめ)の身に落ちて 花の姿に宿かれば」 若菜集 |
かもめ 「波に生まれて波に死ぬ 情の海のかもめどり 恋の激浪(おほなみ)たちさわぎ 夢むすぶべきひまもなし」 若菜集 |
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おえふ 「都鳥浮く大川に 流れてそそぐ川添の 白菫さく若草に 夢多かりし吾身かな」 若菜集 |
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新潮 「羽袖うちふる鶻隼は 彩なす雲を舞ひ出でて 翔(つばさ)の塵を払ひつつ 物にかかはる風情なし」 夏草 |
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薄田泣菫 |
鷦鷯の歌「なう鷦鷯木づたひに ひとり興がる歌きけば 夏の日なかの野の鳥の 誇る羽振も忘れはて 蓑蟲啄みて飛びてゆく 汝が姿をぞ愛でしるる」 暮笛集 |
高村光太郎 |
風にのる智恵子 「尾長や千鳥が智恵子の友だち もう人間であることをやめた智恵子に 恐ろしくきれいな朝の天空は絶好の遊歩道 智恵子飛ぶ」 智恵子抄 |
千鳥と遊ぶ智恵子 「無数の友だちが智恵子の名をよぶ。ちい、ちい、ちい、ちい、ちい 砂に小さな趾あとつけて 千鳥が智恵子に寄って来る」 智恵子抄 |
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中勘助 |
春なれど赤はらつぐみきて鳴けば葛飾野べはいとどさびしき 飛鳥(ひてう) |
中原中也 |
閑寂 「土は薔薇色、空には雲雀、空はきれいな四月です」 在りし日の歌 |
萩原朔太郎 |
閑雅な食慾・笛の音のする里へ行かうよ 「俥に乗ってはしって行くとき 野も 山も ぼうぜんとして霞んでみえる 柳は風にふきながされ 燕も 歌も ひよ鳥も かすみの中に消えさる」 青猫 |
さびしい青猫・題のない歌 「わたしは鶉のやうに羽ばたきながら さうして丈の高い野茨の上を飛びまはった」 青猫 |
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三木露風 |
廿歳までの抒情詩・朝空 「いづこかもほのに聞えて 閑古鳥谷の彼方に ほう、ほうと鳴く音もうるむ」 廃園 |
宮沢賢治 |
休息 「よしきりはなく なく それにぐみの木だってあるのだ」 春と修羅 |
三好達治 |
木兎 「木兎が鳴いてゐる 古い歌 聴きなれた昔の歌 お前の歌を聴くために 私は都にかへってきたのか・・・」 一点鐘 |
雉 「道は川に沿ひ、翳り易い日向に、鶺鴒が淡い黄色を流してとぶ」 測量船 |
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春の岬 「春の岬 旅のをはりの鷗どり 浮きつつ遠くなりにけるかも」 測量船 |
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秋夜弄筆 「日かず経て呼子鳥啼かずなりしを、そてかとききあやしみて外のもに出づれば、音に澄みて鳴けるは遠き蟋蟀なりけり」 測量船 |
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ゴーリキー |
海の灰色の平面を、風が風雲を集める。雲と海の間を、海燕が誇らしく飛ぶ、黒い稲妻のひらめきのように。 その鳴き声の中に、嵐の快楽が! 怒りの力、熱烈に燃えさかる炎、勝利の確信を、雲はその鳴き声に聞く。 海つばめの歌 |