正岡子規
ぬれ足で雀のあるく廊下かな 明治20年 |
卯の花をめかけてきたかほとときす 明治22年 五月に吐血。 この頃から子規という俳号を用いるようになる(啼いて血を喀く時鳥) |
鶯や山をいづれば誕生寺 明治24年 |
馬の背に菅笠広し揚雲雀 明治24年 |
軽井沢 山々は萌黄浅黄やほとゝぎす 明治24年 夏、季語はほととぎす 遠近などにより山の色が異なる この旅の後に、子規は虚子と初めて出会う。 |
ふつくりと七面鳥のたつや秋 明治24年 |
鶯のとなりに細きいほりかな 明治25年 |
鶯の遠のいてなく汽車の音 明治25年 |
とろとろと左官眠るやつばくらめ 明治25年 春、季語はつばくらめ 昼、新築中 |
盗人の昼寝の上や揚雲雀 明治25年 |
杉谷や山三方にほとゝぎす 明治25年 |
範頼の墓に笠をささげて 鶺鴒よこの笠叩くことなかれ 明治25年 |
鵙鳴くや一番高い木のさきに 明治25年 |
鵜の首の蛇とも見えて恐ろしき 明治25年 |
苣の木に雀囀る春日和 明治26年 |
鶯の淡路へわたる日和哉 明治26年 |
鶯や朝寝を起す人もなし 明治26年 |
鶯の梅に下痢する餘寒哉 明治26年 |
いそがしや昼飯頃の親雀 明治26年 |
から臼に落て消たる雲雀哉 明治26年 |
朝見れば吹きよせられて浮寝鳥 明治26年 |
一村は谷の底なり雉の声 明治26年 |
雀より鶯多き根岸哉 明治26年 明治25年から根岸に住む |
たそがれの菎蒻閻魔ほとゝきす 明治26年 根岸から3.5kmの所に源覚寺こんにゃくえんま像がある。 |
月の出や皆首立てゝ小田の雁 明治26年 |
鵙なくや雑木の中の古社 明治26年 |
燕(つばくろ)の帰りて淋し電信機 明治27年 |
鵙鳴くや十日の雨の晴際を 明治27年 |
鵙鳴くや藪のうしろの蕎麦畠 明治27年 |
鵙鳴くや晩稲掛けたる大師道 明治27年 |
鵙鳴て妙義赤城の日和かな 明治27年 |
鵯や昼の朝顔花細し 明治27年 |
稲雀稲を追はれて唐秬へ 明治27年 |
鳥啼いて赤き木の実をこぼしけり 明治27年 |
はし鷹の拳はなれぬ嵐かな 明治27年 |
冬されや石燈籠の鳥の糞 明治27年 |
鵲の人に糞する春日和 明治28年 |
春の海鷗が浮いておもしろや 明治28年 この年、日清戦争の従軍記者に志願し、さらに体調を崩す。 |
戦ひのあとに少き燕哉 明治28年 |
川狩や人におどろく夜の鳥 明治28年 |
秋の海鳥飛ぶ方にひろがれり 明治28年 |
鶺鴒の刈株つたふ氷かな 明治28年 |
鴛鴦の羽(は)に薄雪つもる静さよ 明治29年 この頃は歩行も困難だったので、この句は記憶か想像の可能性も。 |
低き木に鳶の下り居る春日かな 明治29年 |
大凧に近よる鳶もなかりけり 明治29年 |
根岸 鶯の鳴きさうな家ばかりなり 明治29年 明治25年、ウグイスの名所として知られる根岸に転居 |
日に烏それがどうして春の朝 明治29年 |
時鳥鳴くや上野の森の上 明治29年 |
藻の花に鷺彳んで昼永し 明治29年 |
短夜や幽霊消えて鶏の声 明治29年 |
早乙女の弁当を窺(のぞ)く鴉かな 明治29年 |
鳶が舞ふけろりと秋の行くことよ 明治29年 |
野分して上野の鳶の庭に来る 明治29年 |
翡翠の来らずなりぬ秋の水 明治29年 |
夕烏一羽おくれてしぐれけり 明治29年 |
烏鳶をかへり見て曰くしぐれんか 明治29年 |
鴛鴦の羽に薄雪つもる静さよ 明治29年 |
南天に雪吹きつけて雀鳴く 明治29年 |
冬川や家鴨四五羽に足らぬ水 明治29年 |
鴛鴦の向ひあふたり並んだり 明治29年 |
菜屑など散らかしておけば鷦鷯 明治29年 |
鶯横丁塀に梅なく柳なし 明治30年 |
時鳥夜瀧を見る山の道 明治30年 |
万歳は今も烏帽子そ都鳥 明治30年 |
藍壺に泥落ととしたる燕かな 明治31年 亡父の実家は染物屋だった家を買ったので藍壺もあった。 |
霞む日や鳶舞ひ落つる西の京 明治31年 |
新米のこぼるゝ庭や鶏にお群 明治32年 |
鳶見えて冬あたゝかやガラス窓 明治32年 冬、季語は冬 障子窓をガラスに替えたので温かく、外の景色が見える。 |
春待つや椿の莟籠の鳥 明治33年 |
カナリヤは逃げて春の日くれにけり 明治33年 |
恋しらぬ猫や鶉を取らんとす 明治33年 |
残雪ニ鶏白キ余寒カナ 明治35年 |
不忍の鴨寝静まる霜夜かな 明治35年 |
鷹は鳩に鉄砲は豆に御世静か 明治35年 「鷹化して鳩と為る」は七十二候の一つで、春の季語 |
川セミヤ池ヲ遶リテ皆柳 明治35年 |
翡翠の飛んでしまひし柳かな 明治35年 |
柳伐って翡翠終に来ずなりぬ 明治35年 夏、季語は翡翠 柳が伐られてしまった。 あの柳にとまって魚を狙っていた翡翠はどこへいってしまったのか。 |