短歌

 

石川啄木

閑古鳥、鳴く日となれば起るてふ 

友のやまひのいかになりけむ

一握の砂

いま、夢に閑古鳥を聞けり。

閑古鳥を忘れざりしが

かなしくあるかな

悲しき玩具

伊藤左千夫

梅ばやし野分の跡のあかるきに吾立ち見れば鳶高く飛ぶ

左千夫歌集

庭十坪市に住まへど春されば蒿雀(あをじ)さへずり夏行々子

左千夫歌集

鶺鴒の来鳴くこのごろ藪柑子はや色づきぬ冬のかまへに

左千夫歌集

岡麓

ききとめてその名を友の間ひたりし斑鳩はふるき鳥にぞありける

涌井

北原白秋

鷽鳥よいづくにか 鳴き、くくみて、色、匂、さまわかず、風なるか、空なるかも

新頌

かと思ふとその手紙より先きに大和の笠置から鵲の立つやうに飛んで来た

桐の花

百舌啼けば紺の腹掛新らしきわかき大工も涙ながしぬ

桐の花

口授(くじゅ)しつつうしろ寒けき短日を懸巣は飛びてするどかりしか

黒檜

ほのあかき朱鷺の白羽の香の蘊(つつ)み牡丹ぞと思ふ花は闌()けつつ

黒檜

後照らす高麗雉子の彳(たたず)みはせつなかるらし連はあれども

小綬鶏のこち来いと呼ぶ日あたりは何か黄葉でて雑木々の原

緋連雀春は群れくる枯れだの一枝一枝とほろぬくみつつ

暮近き日あし選り来て田の縁(へり)に出てゐる鴫か此方向けるは

雀の卵

冬いまに居つく秋沙鴨か波切の汭渚(うらす)の潟に数寄る見れば

夢殿

月照る野路の明さにて、など啼きやまぬ、鶉よ

水墨集

斎藤茂吉

黒どりの鴉が啼けばおのづからほかの鳥啼く春にはなりぬ

白き山

この山に小雀が木の間たちくぐり睦むに似たる争ひをする

白き山

黒鶫来鳴く春べとなりにけり楽しきかなやこの老い人も

白き山

山かげに響をたつる流あり瑠璃いろの翡翠ひとつ来啼きて

白き山

郭公と杜鵑と啼きてこの山のみづ葉ととのふ春ゆかむとす

白き山

山に居ればわれに伝はる若葉の香行々子(よしきり)はいま対岸に啼く

白き山

あまづたふ日の照りかへす雪のべはみそさざい啼くあひ呼ぶらしも

白き山

行々子むらがりて住む小谷をも吾等は過ぎて湖へちかづく

白き山

鵯鳥は朝々来鳴く谷遠く鳴きつつ来るこゑの恋しさ

寒雲

のど赤き玄鳥(つばくらめ)ふたつ屋梁にゐて足乳ねの母は死にたまふなり

赤光

さ夜ふけていまだ寐なくに山なかを啼きゆく木兎のこゑを聞きたり

ともしび

頬白は淵のそがひの春の樹の秀()にうち羽ぶり啼きたるらしも

ともしび

雪つもるこの浅山に鳴きながら目白飛ぶ見ゆ番(つがひ)も共に

白桃

鷺のゑ暗きをわたりゆく聞こゆ風は南となりたるらしも

白桃

わが部屋のすぐ近くまで樫鳥が来ゐてかたみに戯るらしき

白桃

この園に鳥海山のいぬ鷲は魚を押へてしばしかが鳴く

のぼり路

やまたづのむかひの森にさぬつどり雉子啼きとよむ声のかなしさ

あらたま

島木赤彦

物を乾すわが庭の木に朝なあさな四十雀来る冬となりけり

氷魚

真菰草風通しよき池の家の晴れのいち日よしきり鳴くも

馬鈴薯の花

さ庭べの石垣の巣に餌はこぶ小雀めの親は人を怖れず

太虗集

長塚節

唐鶸の雨をさびしみ鳴く庭に十もとに足らぬ黍垂れにけり

長塚節歌集

篠のめに蒿雀が鳴けば罠かけて籾まき待ちし昔おもほゆ

長塚節歌集

松坂弘

よしきりは翔びたちざまに千切れたるごとく羽撃き角度変へたり

春の雷鳴

水野葉舟

描眼石の底より光るつや見せて雲雀の卵巣にこもり居り

 

与謝野晶子

われなれぬ千鳥なく夜のかぜに鼓拍子をとりて行くまで

みだれ髪

ほととぎす嵯峨へは一里京へ三里水の清滝夜の明けやすき

みだれ髪

つばくらの羽にしたたる春雨をうけてなでむかわが朝寐髪

みだれ髪

とき髪に室むつまじの百合のかをり消えをあやぶむ夜の淡紅(とき)色よ 

みだれ髪

しら樺の折木を秋の雨うてば山どよみして鵲鳴くも

舞姫

かもめゐるわたつみ見ればいだかれて飛ぶ日をおもふさいはひ人よ

舞姫

(あめ)とぶにやぶれて何の羽かある夢みであれな病める隼

舞姫

帆織る戸へ信天翁を荷ひ入る人めづらしや初冬の磯

舞姫

吉井勇

自堕落の身を砂の上に横たへぬ信天翁と誰の名づけし

酒ほがひ

若山牧水

愚かなり阿呆烏の啼くよりもわがかなしみをひとに語るは

別離

月光の青のうしほのなかに浮きいや遠ざかり白鷺の啼く

別離

啼きそめしひとつにつれてをちこちの山の月夜に梟の啼く

別離

啼く声の鋭どかれども鈍鳥(のろどり)の樫鳥とべり秋の日向に

渓谷集

埃たつ野中のみちをゆきゆきて聞くはさびしき頬白の鳥

山桜の歌

松の葉のしげみにあかく入日さし松かさに似て山雀の啼く

路上

曇日の川原の藪のしら砂にあしあとつけて啼く千鳥かな

路上

うち聳え茂れる松のうれにをりてこやかに啼ける繍眼児(めじろ)なるらし

黒松

かいつぶりの頭ばかりが浮きてをり黒くちひさくをりをり動き

黒松

枯松にまひくだりたる椋鳥のむれてとまれるむきむきなれや

黒松

窓さきの竹柏(なぎ)の木に来て啼ける百舌鳥羽根ふるはせて啼きてをるなり

黒松

呼子鳥啼くこゑきこゆ楢檪枯葉をのこす春の山辺に

黒松

松葉かくおともこそすれみそさざいあをじあとりの啼ける向うに

黒松

聞きをりて笑みこそうかべみそそざいひたきも声のみなあはれなる

黒松

鵯の鳥なきかはしたる松原の下草は枯れてみそさざいの声

黒松

 

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